【隈病院 専門医監修】橋本病とは?症状・原因・治療薬と甲状腺機能低下症を解説
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病気の発見から病態が解明されるまで
甲状腺の病気のなかで、発見者の名前がついているものがいくつか知られています。今回ご紹介いたします橋本病もその一つです。
病気の発見者である橋本 策先生は、九州大学卒業後に同大学第一外科に入局されていますが、実は当院の初代院長である隈鎮雄先生も同じ医局の8年後輩で、同門会の写真では横に並んで写っているものがあります。お二人に、甲状腺学発展に少なからぬ縁があったのを伺い知ることができます(図1)。
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橋本策先生が30歳の時(1912年)に、大学に保存されていた甲状腺摘出標本の観察から4名の特徴的な病理所見を世界で初めて報告したのがきっかけとなり、橋本病という疾患名がつくことになりました。当時はその原因はよくわかりませんでしたが、1950年代の研究成果から、自己免疫機序による慢性炎症が原因であると明らかにされました。そのため、現在は橋本病と慢性甲状腺炎はほとんど同じ意味で用いられています。
橋本策先生は35歳の時に故郷の三重県伊賀市で開業されましたが、腸チフスのため52歳(1934年)で亡くなられています。残念ながら、橋本病が自己免疫疾患の代表として世界中に認知されることを、先生が目にすることはできませんでした。しかし、橋本策先生の肖像は日本甲状腺学会のシンボルマークとして、さらに九州大学医学部の通りの一部には「橋本通り」という名称がつけられて、先生の功績は今も称えられています。
経過と症状
橋本病は、30〜50代の女性に多く発症します。甲状腺ホルモンは代謝を活発にして元気を出すホルモンですが、甲状腺がそのホルモンを産生できなくなることを甲状腺機能低下症と呼びます。そして、成人の甲状腺機能低下症の一番多い原因が橋本病です。
ただし、橋本病の方すべてが甲状腺機能低下症になるわけではありません。橋本病と診断されても生涯にわたって甲状腺機能低下症に移行しない方のほうが実は多く、一時的に甲状腺機能の低下がみられても回復する方も多くみられます。橋本病の甲状腺は、徐々に腫大し、やや硬くなる特徴がありますが、進行度や程度は様々です。
なかには、甲状腺が萎縮してしまうこともあります。甲状腺機能が正常の場合は症状がみられませんが、低下症になると全身の代謝も低下し、さまざまな変化が出てきます。顔や手足のむくみ、皮膚の乾燥、寒がり、便秘、体重増加などが一般的な症状です。
今まで問題なかった健康診断で、脈が遅くなったり、高コレステロール血症を指摘されて、気づかれることもあります。また、精神機能の低下症状が、高齢者では認知症と間違われることもあります。橋本病は通常ゆっくりした経過を辿る病気ですが、急に甲状腺が大きくなったときは注意が必要です。その場合、甲状腺機能が急に低下していたり、リンパ腫という病気が合併している可能性があります。万が一、自分では気付くことができなかった場合でも、こういった変化を早く見つけるためには定期的な検査が必要です。
検査と診断
通常、橋本病の診断や経過フォローには血液検査と超音波検査が用いられます。血液検査では、甲状腺機能と抗甲状腺自己抗体の評価を行います。甲状腺ホルモン(FT3、FT4)が低値、甲状腺刺激ホルモン(TSH)は高値であれば甲状腺機能低下症です。甲状腺ホルモンが正常でもT S Hがやや高値だと軽い甲状腺機能低下症と判断されます。
抗甲状腺自己抗体とは、甲状腺組織特有のタンパク質で、ホルモン産生に関与するサイログロブリン(Tg)あるいは甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)に対する抗体(TgAb、TPOAb)を意味しますが、橋本病ではこれらの抗体が陽性となります。ただし、TgAb、TPOAbの抗体価が高くても、甲状腺以外の臓器には影響はありません。
一般成人女性を対象に、抗甲状腺自己抗体を測定すると約10人に1人は陽性になりますので、潜在的な橋本病の方はかなり高い頻度でいらっしゃいます。バセドウ病でも約7割の方が抗甲状腺自己抗体陽性になりますが、この場合は橋本病とは診断されません。超音波検査では、炎症所見がある場合にまだらに黒い部分(低エコー域)が認められます。炎症が進展すると甲状腺全体が低エコー域に描出されます。
ちなみに、P E T検査をすると橋本病の方は甲状腺にびまん性の集積を指摘されることが多いですが、これも多くは炎症を反映しています。橋本病発見のきっかけになった特徴的な甲状腺の病理像とは、どのようなものであるのかを見てみましょう(図2)。


左側の正常甲状腺では甲状腺ホルモンが合成される濾胞の構造が整然と認められます。一方、右側の橋本病では、甲状腺内の炎症反応としてリンパ球や繊維組織が浸潤し、濾胞構造がかなり破壊されています。このように濾胞構造の破壊が進むと甲状腺ホルモンの産生ができなくなります。
甲状腺の一部を採取する細胞診という検査方法で、リンパ球浸潤の所見から橋本病を診断することもできます。ただし、抗甲状腺自己抗体陽性所見と病理所見は高い一致率を示すこと、細胞診よりも血液検査のほうが簡便であることから、日常診療では抗甲状腺自己抗体陽性が橋本病診断の根拠にされることが多いです。
治療
甲状腺機能正常の場合、あるいは軽度や一過性の甲状腺機能低下症の場合は、通常治療の必要はありません。一方、明らかに甲状腺機能が低下して症状がある場合は、不足している甲状腺ホルモンを補う必要があります。以前は、ブタの甲状腺から抽出されたものが薬として用いられていましたが、現在は化学合成された甲状腺ホルモン薬(商品名:チラーヂンS)が用いられています。
甲状腺を無理に刺激してホルモンを出させるのではなく、生体内で作れなくなったホルモンを薬として補充するため、副作用を心配する必要はほとんどありません。ただし、高齢者や心疾患などを合併している場合には、ホルモンバランスが急に変化して負担がかからないように少量から投薬を開始します。
甲状腺ホルモン薬を服用すると約12か月で効果が明らかになりますので、そのくらいの間隔で検査をして、甲状腺ホルモン値が正常になるまで薬を増量していきます。補充量が足りてくると自覚症状も改善され、健康な方と全く変わらない生活を送ることができます。
もし、甲状腺ホルモン値が正常になっても何らかの症状が持続する時は、甲状腺以外の病気を考える必要があります。また、他のお薬との併用はほとんど問題ありませんが、鉄剤や胃薬などを併用すると甲状腺ホルモン薬の吸収が悪くなるので、最低4時間くらい内服間隔を空ける必要があります。
コーヒー、牛乳あるいは繊維質の多い食事の後に服用しても吸収が悪くなるので、このような影響を避けるためには空腹時(起床時や眠前)に甲状腺ホルモン薬服用が勧められます。きちんとお薬を内服している場合、甲状腺が著明に腫大することは滅多にありません。しかし、気管が圧迫されるくらいに顕著になった場合は、薬で甲状腺を縮小させることは難しいため手術が必要になります。
ちょっと気になる橋本病 Q & A
Q1 橋本病と甲状腺機能低下症は同じ病気?
A 甲状腺機能低下症には橋本病以外にもいろいろな病気があります。橋本病が成人では最も頻度が高いので混同されていますが、甲状腺機能低下症の一部です。
手術で甲状腺を全摘した方やバセドウ病のアイソトープ治療後の方も甲状腺機能低下症で、一緒のお薬を使います。だからといって、これらの方が橋本病になったという意味ではありません。
少しややこしいですが、橋本病は炎症が急に増悪すると一時的に甲状腺ホルモンが高値になることもあります。
Q2 橋本病で、日常気を付けておくべきことは?
A 橋本病の方がヨウ素をたくさん摂りすぎると、甲状腺機能低下症を起こしやすくなります。特に甲状腺ホルモン薬を内服していない方は、海藻類の多食や、ヨウ素入りうがい薬の長期使用は控えましょう。
妊娠を考えている方あるいは妊娠中の方も注意が必要です。症状がない軽度の甲状腺機能低下症でも不妊症や、胎児発育異常の原因になることが指摘されています。そのため、橋本病の方はあらかじめ妊娠を考える時期にはきちんと検査を受けて、甲状腺機能を正常化させるために積極的に甲状腺ホルモン薬の内服が勧められています。
今まで甲状腺ホルモン薬を内服していた方も、妊娠時は必要量が増加するため、早めの受診が必要です。至適量の甲状腺ホルモン薬は妊娠・授乳中でも安全に内服できます。
内科科長・診療支援本部本部長 西原 永潤
PROFILE
長崎大学医学部を卒業後、長崎大学 第一内科に入局。臨床・基礎研究に従事し、アメリカのベイラー医科大学への留学も経験。留学から帰国後は、基礎研究に従事しながら一般診療を担当する。その後、甲状腺の経験を積むために2004年に隈病院に入職。入職以来、毎年論文執筆を続け、2011年には日本甲状腺学会・七條賞を受賞。