【隈病院 専門医監修】妊娠と甲状腺の関係とは?数値の異常を指摘されたら読むガイド
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「妊娠希望で産婦人科を受診して検査をしたら、甲状腺機能の異常が見つかった」「妊娠後の検査で甲状腺の数値が異常だと言われた」。こういったことをきっかけに隈病院を受診される方は結構多いです。
妊娠に、甲状腺の数値がそんなに重要ですか?→重要なんです。正しく解釈して、正しく治療することで妊娠に対する危険性を下げることができます。詳しく解説しますので、参考にして下さいね。
甲状腺機能低下と妊娠
甲状腺ホルモンは、からだの代謝を上げるためのホルモンです。過剰だと代謝が亢進し、不足すると代謝が悪くなります。
まず妊娠が成立するためには、甲状腺ホルモンの不足(代謝が低下した状態)は好ましくなく、実際に甲状腺機能低下症は不妊のリスクのひとつとされています。甲状腺機能低下に伴い、月経不順や黄体機能の低下、受精率が低下することなどが報告されています。なかなか妊娠できなくて婦人科を受診したときに甲状腺機能がチェックされるのはそのためです。また、甲状腺ホルモンが低下する代表的な病気に橋本病がありますので、橋本病の原因とされている甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体:Tg Ab、抗甲状腺ペルオキシダーゼ抗体:TPOAb)も測定されることが多いです。これらの数値に異常が見つかった場合、妊娠前に治療が必要なケースがあり、そのまま婦人科で治療が始まることもありますし、当院のような内分泌の専門医に紹介になるケースもあります。
妊娠が成立した後にも、甲状腺ホルモンは重要です。赤ちゃんの成長、特に脳神経系の発達に、甲状腺ホルモンは不可欠なものです。ただ、お母さんのお腹に宿ったばかりの小さな赤ちゃんは、まだ自分で甲状腺ホルモンが作れません。赤ちゃん自身の甲状腺がちゃんとできて、十分な甲状腺ホルモンを作れるようになるのは妊娠20週くらいになってからといわれています。それまでの間、赤ちゃんは胎盤を通してやってくる、お母さんの作った甲状腺ホルモンに依存します。つまり妊娠すると、お母さんは自分に必要な分だけでなく、赤ちゃんの分まで、甲状腺ホルモンを作らなければなりません。お母さん自身にも甲状腺ホルモンが不足した状態では当然赤ちゃんにも不足してしまいますので、そのような場合流早産のリスクになったり、神経精神系の発達に影響することもあるとされています。
以上の理由から、妊娠を希望してる場合の妊娠前、または妊娠中(特に初期)に見つかった甲状腺機能低下症は、基本的に「絶対的な治療適応」になります。さらに赤ちゃんが必要な分も考えると、正常範囲のなかでも「より十分にホルモンがある状態」が理想的です。具体的には、甲状腺刺激ホルモン(TSH)が2.5μ IU/ml以下、というのが現時点では推奨されています。妊娠中期以降はもう少し高くても大丈夫ともされていますが、いずれにせよ赤ちゃんに十分な甲状腺ホルモンが届くように、必要な量の甲状腺ホルモン剤(チラーヂンS®)を内服してコントロールします。
すでに甲状腺機能低下症と診断されて治療をしている方も、妊娠をお考えの場合や妊娠した場合には、治療の基準が少し変わりますし、多くの場合、妊娠後には甲状腺ホルモン剤の増量が必要になります。ですので妊娠希望や妊娠したときには必ず主治医に相談してくださいね。
甲状腺機能亢進症と妊娠
前述したとおり、甲状腺ホルモンは妊娠の成立と維持には不可欠です。では、多ければ多いほどいいのでしょうか?決してそうではありません。多すぎると母体自体の健康にも影響しますし、妊娠すれば赤ちゃんにも悪影響であることが研究結果から分かっています。
甲状腺ホルモンの過剰は、代謝を過剰な状態にします。動悸や息切れ、疲れやすさの症状だけでなく、血圧も上がりやすくなり、妊娠高血圧症候群のリスクも高くなります。重症な場合には不整脈や心不全を起こすこともあります。甲状腺ホルモンが過剰でも妊娠自体は成立することが多いが、当然ながら妊娠前・妊娠中の身体は大切です。母親となる身体は健康に保たなければなりません。
また、甲状腺ホルモンが過剰な場合も、流早産のリスクになるとされています。さらに、赤ちゃんの神経系の発達にも影響して認知発達異常を引き起こしたりすることも指摘されています。甲状腺ホルモンは不可欠ですが、多すぎてもそれはそれで害になる。適切なホルモン状態にコントロールする必要があります。

甲状腺機能亢進症の原因となる最も一般的な疾患にバセドウ病があります。バセドウ病の治療中でも、きちんとコントロールした状態で(計画的に)妊娠出産すれば大きな問題になることはありません。ただし、注意しなければならない点がいくつかあります。
まず一つ目は、当然ですが甲状腺機能が適切にコントロールできていること。これはすでに書いたとおりです。
二つ目は、バセドウ病を引き起こす原因である自己抗体(TSHレセプター抗体:TRAb、刺激性抗TSHレセプター抗体:TSAb)があまり高値でないこと。これらの抗体は、母体から胎盤を通して赤ちゃんにも一部が移行します。妊娠20週以降、赤ちゃんの甲状腺が機能し始めた状態でバセドウ病の自己抗体が移行すると、胎児バセドウ病や、出生後の新生児バセドウ病を引き起こしたりすることがあります。胎児バセドウ病は程度により、流産、死産、早産の原因になったり、胎児の甲状腺の腫れ、心臓への負担で心肥大を来すこともあるので注意が必要です。出生後には、赤ちゃん自身の身体でTRAbが作られているわけではありませんから徐々に抗体値は低下して改善しますので、重症でなければ新生児バセドウ病は経過観察ですむことも多いですが、いずれにせよ赤ちゃんの命や健康を考えると、自己抗体もある程度低下してからの妊娠が望ましいですね。
三つ目に、内服している薬にも注意が必要です。バセドウ病で処方される薬には、チアマゾール(メルカゾール®)、プロピルチオウラシル(チウラジール®/プロパジール®)、ヨウ化カリウムの3つがあります。そのうち、チアマゾールは赤ちゃんの器官形成期と呼ばれる妊娠初期(4週〜15週頃)に内服していた場合、いくつかの奇形のリスクが上がることがこれまでの研究で明らかになっています(チアマゾール関連奇形症候群)。

特に妊娠5週から9週までの間はチアマゾールの内服は避けるべきとされていますので、チアマゾール内服中の方は、妊娠した際に内服をどうしたらいいのか、必ず主治医に確認しておいてください。万が一、妊娠に気づくのが遅くて器官形成期にチアマゾールを内服していても、奇形を引き起こす確率は決して高くはありませんし、また出生後に治療が可能である奇形が殆どです。そのような場合も中絶を勧めることはまずありませんので、甲状腺と産婦人科の主治医とで注意しながら経過を見ていきましょう。
プロピルチオウラシル、ヨウ化カリウムについては基本的に妊娠中も継続して内服できるとされていますが、妊娠に伴って用量の変更が必要なこともよくあります。いずれにせよ、妊娠時には早めに主治医に受診していただくのが大切です。
さらに、バセドウ病に対して放射性ヨウ素内用療法を受けられた方は、体内に放射性物質を取り込んだ状態になっていますので、少なくとも内服後半年は妊娠を避けるようにお願いします。半年後以降、甲状腺機能や自己抗体が安定していれば妊娠可能になりますので、主治医の先生とよく相談しましょう。
バセドウ病に対する放射性ヨウ素内用療法後や手術後で甲状腺機能低下症となりホルモン補充療法を行っている方のなかにも、ときどき自己抗体(TRAb、TSAb)が高いままの方がいらっしゃいますので、注意して下さい。
さいごに
甲状腺機能異常を指摘されて、治療が必要と言われて、本当に私、ちゃんと妊娠できるの?赤ちゃんは健康に生まれてくるの?いろいろ、不安なことも多いと思いますが、「妊娠したい」「元気な赤ちゃんを産みたい」という気持ちに、私たち医療者も精一杯応えたいと思っています。不安なことは聞いてください。精神的に辛ければ、それをサポートするカウンセリングや医療相談の利用も可能です。小さなことでも遠慮せずに相談してくださいね。」
内科医師 久門 真子
PROFILE
中学生の頃に経験したバセドウ病がきっかけとなり、甲状腺を専門とする医師になることを決意する。香川大学医学部を卒業後、2002年に同大学の第一内科に入局。内分泌代謝内科を中心に、広く内科診療の経験を積む。その後、甲状腺の診療について学ぶため、2008年に隈病院の内科に入職。その後、一度大学へ戻るが、2014年に再び隈病院へ。入職後は、産休や育休を取得しながら、診療に尽力。自身の病気の経験から、患者さんに寄り添った診療を心がけている。