【公認心理師監修】バセドウ病でイライラ・情緒不安定になるのはなぜ?ストレスとの関係と心のケア
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はじめに
隈病院の2階にカウンセリングセンターがあります。身体の治療をする甲状腺疾患専門病院になぜ、カウンセリングセンターがあるのか、疑問に思う方はおられると思います。当院前院長の隈寛二は甲状腺治療はうまくいっているのに、喉の違和感やイライラ感などの訴えがなくならない患者さんが少なからずいるという体験から、「甲状腺疾患の中には、身体とこころが深く関係している場合がある」と指摘しています(1)。甲状腺疾患と言っても、甲状腺ホルモンの異常から甲状腺腫瘍など、さまざまな病気があります。身体に起こっているどの病気もこころとのつながりはあります。今回はわかりやすい例として、バセドウ病をとりあげますが、ぜひほかの疾患の患者さんもご覧ください。
ストレスとの関係
バセドウ病の発症要因や増悪因子[a]のひとつにストレスとの関連があることをご存知でしょうか。昔から認識されていましたが、疫学的な研究によって裏付けられたのは比較的近年のことです。日本甲状腺学会の『バセドウ病治療ガイドライン2019』において、「バセドウ病は高い頻度で、抑うつ性、神経症的などの心理特性がみられ、精神的および身体的ストレスがバセドウ病の増悪因子になりうるので、特に精神面に留意した治療が必要である」と明記されています(2)。表1にバセドウ病の発症、経過に影響する心理社会的要因を示します(3)。これらの要因が特に女性患者さんの予後を悪化させると言われています(4)。ライフイベントの中で、よくないイベントだけでなく、慶事と言われるような結婚、出産、昇進などでも、身体、環境の変化に伴い、体調を崩す方も少なくありません。例えば、結婚は新しい生活環境、人間関係を作ることになりますし、出産は娘という立場から母親という立場に大きく変わります。環境や立場が変わっても、こころは簡単に変わっていくことは難しいのです。何か変化するときには、こころの準備も必要になってきます。

精神的な症状の実態
バセドウ病にはさまざまな症状が現れます。「多汗」や「手の震え」「息切れ」などの身体症状だけでなく、「いらいら」「情緒不安定」「不安」「不眠」「倦怠感」「落ち着きのなさ」「怒りっぽくなる」などの多くの精神症状があります。18歳以下の小児期においては、集中力低下のため学力低下をきたすこともあります。
これらの症状は甲状腺機能が正常化するとともに、改善すると考えられてきましたが、最近の研究によると、治療により甲状腺機能が正常化してからも精神症状が残る例が多いことがわかっています。その要因として、「心因、性格、生育史[b]、生活状況など」が関与しています(5)。また、甲状腺機能正常化後も精神状態が悪い場合は予後が不良化しやすい[c]とされています(6)。病気からくる症状なのか、病気になったために起こってくる気持ちの不安定さなのか、見分けがつきにくいところがあります。特に、小児期の子どもの場合、自分のこころをコントロールすることが難しく、家庭や学校での適応に支障が出て、対人関係の悪化や学校に行きにくいなどの生活に大きな変化が生じる場合があります。特に、思春期のこころの成長には、学校の中での人間関係が大きく影響します。まわりに病気と知られて特別扱いされることを嫌がることもあります。どのような配慮が必要か、本人とも話し合っていきながら、学校との連携も必要になってくる場合もあります。
また、バセドウ病は食べても痩せるという症状があるため、ふとりたくない思いから薬を飲まない女性もおられます。摂食障害にならないように、注意する必要があります。


こころの状態の特徴
では、バセドウ病の方に共通したこころの状態はあるのでしょうか?一般の身体治療からみるバセドウ病患者さんは、社会適応もよく、心理社会的ストレスを抱えているようにはみられません。にもかかわらず、こころの状態を捉えることができる心理テストを用いた研究では、「常識的で社会順応がよい一方で、対人関係の過敏さや不安がみられること、感情のコントロールが難しいことなど」が報告されています(7)。バセドウ病の方は表面的には心理的援助が必要な状態なのかどうか、わかりにくいという特徴があるようです。そのため、バセドウ病を治療していく上で、精神面に留意する必要があるにも関わらず、自分自身や周りもその人がストレスを抱えていると気づかず、無理をして、症状が重篤になることや、寛解状態[d]になっていても再燃するケースがあります。
身体とこころの橋渡し
バセドウ病の方はご自分ではこころのしんどさを感じにくい特徴があるので、積極的にカウンセリングを求める方は多くはありません。しかし、守秘義務が守られた安心できる環境の中で、気になることをお聞きすると、こころの悩みを語る方は少なくありません。病気にまつわることから人間関係の悩み、仕事の悩み、将来の不安などさまざまです。カウンセリングの中で、ある女性が今までの自分について、「自分さえ我慢していたら、うまくいくと思っていた」と話されました。しかし、回を重ねる中で、「頭と身体がひっつく。人生後半に向けて、頭ではないところの車輪を動かしていこうと思う」と変わってこられました。病気を治していく(身体を大事にする)ためにはこころも大事にしていくことが必要と、身体とこころのつながりに気づかれたようです。バセドウ病の寛解率を調べたところ、カウンセリングを長期に受けている方の寛解率は、短期間受けている方よりも有意に高いという結果でした(8)。バセドウ病という身体の病気がこころを通して、改善していくという可能性が見いだされたように思います。
まとめ
ここでは、バセドウ病の話をしてきましたが、他の疾患についてもこころとのつながりは深いです。甲状腺癌は癌と言われたショックで病気を受け入れられない方、不安な気持ちで寝られない方、さらに、手術後数年経っても以前の体との違和感から気持ちが沈みがちになる方などいろいろなこころの反応が起きてきます。身体が健康なときは保っていたこころの安定が病気をきっかけに崩れることがあります。ご自分のペースでゆっくり話し、聴いてもらう体験が身体とこころの安定につながる場合も多いです。
カウンセリングの使い方は当面の悩みが解決すると終わっていく方から、長期に継続される方、悩みが出てきた時々に使われる方など、さまざまです。いつでも安心して語れる場として、カウンセリングの門戸を開けておくことが大切だと思っています。

【用語解説】
[a] 増悪因子:状態を悪化させる因子
[b] 生育史:自身が生まれてから今日まで育ってきた歴史
[c] 予後が不良化しやすい:病気などの回復の見通しが悪いこと
[d] 寛解状態:全治とまでは言えないが、病状が治まっておだやかであること
【引用文献】
(1) 隈 寛二:提言 からだとこころ.医療のなかの心理臨床;こころのケアとチーム医療.成田善弘監.新曜社,211-228,2001
(2) 日本甲状腺学会編:バセドウ病治療ガイドライン2019,南江堂,96-97,2019
(3) 深尾篤嗣,高松順太,河合俊雄,宮内昭他:甲状腺疾患の心身医療.心身医学53:42-50,2013
(4) Yoshiuchi K,Kumano H,Nomura S,et a:l Stressful life events and smoking were associated with Graves’disease in women,but not in men. Psychosom Med 60:182-185,1998
(5) 藤波茂忠,伊藤國彦:バセドウ病からみた内分泌精神障害.精神神経学雑誌85:776-787,1983
(6) Fukao A,Takamatsu J,Murakami Y,Miyauchi A,et al : The relationship of psychological factors to the prognosis of hyperthyroidism in antithyroid drug-treated patients with Graves’disease.Clin Endocrinol 58 :550-555,2003
(7) 藤田雅春,小林伊佐男,他.甲状腺機能亢進症とパーソナリティー,精神身体医学8(2):29-32,1968
(8) 田中美香,金山由美,河合俊雄,宮内昭他.バセドウ病患者のカウンセリング過程にみられる特徴についてー甲状腺専門病院での実践からー.
日本心療内科学会誌17:174-179,2013
カウンセラー 田中美香
PROFILE
神戸女学院大学卒業後、市立教育センターで子ども、保護者のカウンセリングを行う。その後、甲南大学大学院修了。大学付属のカウンセリング機関で臨床心理士として研鑽を積み、2004年から隈病院に入職。甲状腺疾患および、それに伴う精神疾患をもった患者さんへのカウンセリング及び、研究にも力を注ぐ。
また、遺伝性腫瘍コーディネーターとして、遺伝カウンセリングも行っている。
(臨床心理士・公認心理師)