メディカルコラム

【隈病院 専門医監修】甲状腺ホルモンとは?働きや増えるとどうなるか・主な病気を解説

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バセドウ病は甲状腺ホルモン( T4、T3)が増える病気の代表です。しかし甲状腺ホルモンが増える病気はバセドウ病だけではありません。では他に、どんな病気があるでしょう。それぞれ治療法が違いますので、病気のことを理解しておくことは大変重要です。今回はバセドウ病も含めて、様々な甲状腺ホルモンが増える病気を簡潔に解説したいと思います。

甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症

この解説を始める前に、まず2つの言葉の意味を理解しておく必要があります。あまり聞き慣れないかもしれませんが、それは甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症という言葉です。中毒症というとなんだか怖いイメージが湧いてきますが、たとえばアルコール中毒ではアルコールを飲みすぎて血液中のアルコールが増えて、顔が赤くなったり、動悸がしたり、フラフラになったりします。甲状腺中毒症もこれと同じようなことで、血液中の甲状腺ホルモンが増えて、動悸がする、暑がりになる、体重が減ってくるなどの症状が出てくることをいいます。

単純に血液中に甲状腺ホルモンが増えた状態と考えてもらってもいいです。一方、甲状腺機能亢進症は、甲状腺自体が過剰に、活発に甲状腺ホルモンを産生している状態を示しています。(図1)のように、甲状腺機能亢進症は甲状腺中毒症の一部です。読み進んでいくと、だんだんご理解いただけるかと思います。

図1 甲状腺中毒症と甲状腺機能亢進症

外因性甲状腺中毒症

甲状腺ホルモン薬、たとえばチラーヂンSを誤って、毎日過剰に摂取したとします。そうすれば甲状腺ホルモンが当然のことながら増加し甲状腺中毒症となります。しかし、甲状腺自体が過剰に、活発に甲状腺ホルモンを産生している状態ではありませんので、甲状腺機能亢進症とはいいません。

1980年代の有名な話ですが、アメリカのある町で、甲状腺中毒症が流行しました。普通、甲状腺中毒症が流行することはありません。多数の医師や疫学者が参加して、その流行の原因を探ろうとしました。その結果、どうもある地域のハンバーガーを食べた人が甲状腺中毒症を発病していたのが分かりました。そこでハンバーガーをよく調べると、そのパンに挟まれたお肉のパティの中に牛の甲状腺が誤ってミンチされていたのです。牛もヒトも甲状腺ホルモンの構造は同じですから、そのハンバーガーを食べると甲状腺中毒症になるのは当たり前です。これをハンバーガー甲状腺中毒症と言います。

また、一時、全国で牛や豚の甲状腺の粉末が入ったやせ薬(カプセル)が流行しました。確かに体重は減りましたが、そのやせ薬を摂取すると甲状腺中毒症状が現れ不整脈、肝障害などを起こすことがあります。(図2)は、そのカプセルを入手し、私が内服し、自身の体で実験をした時の甲状腺ホルモンの変化をみたものです。内服6時間後には、特に甲状腺ホルモンとしての作用を持っているFT3の濃度が8pg/mLを越えました。この時はさすがに全身倦怠感が出現したことを覚えています。皆様方は決してこのような無謀なことをなさらないようにお願いいたします。

図2

牛や豚の甲状腺の粉末が入ったやせ薬は今でもネットなどで簡単に手に入ります。体重は減っても、心不全での入院など命がけのダイエットになりかねません。くれぐれも注意されてください。

無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎

甲状腺の内部には、甲状腺ホルモンが大量に蓄えられています。何らかの機序により甲状腺が破壊されると、その蓄えられていた甲状腺ホルモンが漏れ出して、その結果、血液中の甲状腺ホルモンが増えて、甲状腺中毒症の状態になります。

その何らかの機序というのはまだ良くわかっていません。無痛性甲状腺炎と亜急性甲状腺炎を合わせて破壊性甲状腺炎とも言います(図1)。石油貯蔵タンクが破壊されて、貯蔵されていた石油があふれでた状態と似ていますね。無痛性甲状腺炎は、出産後に生じることが多く、その場合、産後甲状腺炎といいます。産後以外でも、アミオダロンという抗不整脈薬やリュープリンなどのGnRHアナログという薬によって誘発される、あるいはクッシング症候群などの手術後にも出現する場合があります。ここで大事なことは、無痛性甲状腺炎は、決して甲状腺機能亢進症とは言わないことです。甲状腺が過剰に甲状腺ホルモンを産生しているわけではありません。

また亜急性甲状腺炎も無痛性甲状腺炎と同じく破壊性甲状腺炎の一種で、甲状腺ホルモンが増加しますが、甲状腺部に痛みを生じます。不思議なことに小児にはまずない病気です。どういうわけか中年の女性に多い病気です。痛みがあると言うことで、不安な気持ちで病院を受診しますが、心配いりません。通常の痛み止めや少量のステロイドで完治します。氷で痛む部位を冷やしても治るくらいです。大事なことは、破壊性甲状腺炎であり甲状腺機能亢進症ではありませんから、甲状腺ホルモンの産生を抑えるメルカゾールなどの抗甲状腺薬の投与は禁忌です。内服しても効果はありませんし、何よりも抗甲状腺薬により、白血球が減るという危険な副作用がでれば、緊急入院となる場合があります。

ところが実際はどうでしょう、隈病院では決してこんなことはありませんが、無痛性甲状腺炎などの破壊性甲状腺炎に対して誤って抗甲状腺薬が投与されるケースが後を絶ちません。自然に治りますから特別な治療はいりません。患者の皆さんも、本当に自分は抗甲状腺薬を飲む必要がある病気か疑問に思った場合は遠慮なく担当の先生に尋ねてみてください。

甲状腺刺激物質による甲状腺中毒症

バセドウ病

バセドウ病では、血液中に普段はないTRAb(TSH受容体抗体)という物質が出現し、それが甲状腺のTSH受容体(アンテナ)に働いて、甲状腺ホルモンの産生を促し、甲状腺全体が甲状腺ホルモンを過剰に分泌するようになります。その結果、血液中の甲状腺ホルモンが増加して、甲状腺中毒症状が出現することになる病気をいいます。バセドウ病では甲状腺内でTRAbにより甲状腺ホルモンの産生が増えますので、これは甲状腺機能亢進症で、抗甲状腺薬を投与する必要があります。

妊娠時一過性甲状腺機能亢進症

妊娠中、血液中に増えるヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンがあります。よく妊娠反応に利用されますね。このhCGが著しく増加すると甲状腺を刺激して甲状腺ホルモン分泌作用を持つことになります。特に妊娠10週頃、つわりのひどい方に著しい増加傾向があり甲状腺ホルモンが増加します。hCGの刺激による甲状腺機能亢進症ですが、TRAbは陰性で、バセドウ病ではありません。幸いにして、このhCGは10週頃をピークに減少していきますので、甲状腺ホルモンもほとんどのケースで治療をすることなく自然に軽快していきます。

甲状腺刺激物質によらない甲状腺中毒症

機能性甲状腺結節

これは甲状腺内のしこり(結節)が甲状腺ホルモンを過剰に産生します。

TRAbやhCGなどの刺激物質がなくても勝手に自律的に甲状腺ホルモンを産生します。ほとんどが良性の結節なので心配いりません。プランマー病や中毒性多結節性甲状腺腫などとも呼ばれます。
(図3)のようにシンチグラフィーという検査をすればすぐ診断がつきます。結節の部分がホルモンを産生していると、そこが黒々と映し出されます。バセドウ病ではありませんが治療はバセドウ病と同じです。

図3

非自己免疫性甲状腺機能亢進症

これは大変珍しい病気です。基本的に遺伝する病気で、何の甲状腺刺激物質もありませんが、機能性甲状腺結節とは違って甲状腺全体が甲状腺ホルモンを産生する甲状腺機能亢進症です。甲状腺にはTSH受容体というアンテナがあります。これに甲状腺刺激ホルモン(TSH)というホルモンが働くと、刺激が伝わり甲状腺から甲状腺ホルモンが産生されます。バセドウ病は、自分の体の成分であるTSH受容体に対する抗体、つまりTRAbが出現します。この現象を自己免疫というわけです。ところが、この非自己免疫性甲状腺機能亢進症では、TRAbはありませんが、TSH受容体の形が遺伝的に少し変形した結果、甲状腺ホルモンが勝手に産生されるように暴走してしまいます。治療は基本的にはバセドウ病と同じです。

おしまいに

甲状腺ホルモンの増加は、イコールバセドウ病ではないということがお分かりいただけたでしょうか。まだまだ他にも甲状腺ホルモンが増える病気はありますが、基本的なことだけ紹介しました。少しでも病気の理解の参考になれば幸いです。

内科医師 深田 修司

PROFILE

広島大学医学部卒業後、九州大学の心療内科に入局。その後、当初は半年間の予定で甲状腺疾患を学ぶために隈病院へ入職。甲状腺疾患について懸命に学び続けた結果、隈病院へとどまることを決意。約30年もの間、隈病院で甲状腺疾患の診療や研究に従事。「寝ても覚めても甲状腺のことで頭が一杯」と語るほど、甲状腺疾患の奥深さに魅了されている。

本記事は、隈病院の医師が監修しています。詳細はこちら

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