【隈病院 専門医監修】甲状腺乳頭癌の生存率と年齢の関係:55歳以上のリスク分類と手術の重要性
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はじめに
甲状腺乳頭癌は甲状腺癌の中でもっとも多く、全体の90 %近くを占めるものです。予後は総じて良好であることは一般に認知されていますが、いくつか予後を悪くする因子があります。
その中でも年齢はもっとも重要な予後を左右する因子です。国際対がん連合のstage分類では、55歳未満の症例は遠隔転移がなければすべてStageIに分類されます。遠隔転移があった場合でもStageIIであり、その上のStageIIIおよびIVに該当する症例はありません。それほど高齢者と若年者の予後は、大きく違うのです。
しかし高齢者だからといって、どんな症例でも本当に予後が悪いのでしょうか?今回はこの点について述べてみます。
乳頭癌のリスク分類と年齢の関係
2018年に日本内分泌外科学会/日本甲状腺外科学会(当時)から出版された「甲状腺腫瘍診療ガイドライン2018」では色々な予後因子をふまえて、乳頭癌の再発および癌による死亡のリスクを表1のように分類しています(元の表は英語ですので、日本語で一般の方向けに訳しています)(1)。
超低リスク症例は手術をしないで経過観察の適応となりますが、それ以外は基本的に手術が治療の第一選択となります。実際にこれらの手術後の予後を検討してみると、再発予後および生命予後とも超低/低リスク群、中間リスク群、高リスク群の順に不良となっていきます(2)。
しかしこの分類では、年齢が考慮されていません。それぞれの分類に年齢を加えると、どうなるでしょうか?

図1に、55歳以上および55歳未満の超低/低リスク症例の生命予後曲線を示します(3)。2つの曲線はほぼ完全に重なっており、統計学的にも差はありません。しかも癌で亡くなっている人は極めて少なく、このことから超低/低リスク症例は年齢に関係なく予後良好であることがわかります。

次に、中間リスクおよび高リスク症例の生命予後と年齢の関係を図2に示します。

赤の曲線は55歳以上の高リスク症例の予後を示していますが、これだけ他の三本の曲線と大きくかけ離れています。すなわち55歳以上の高リスク症例では癌による死亡率が、他より際だって高いことがわかります。
細かくみれば中間リスク症例も55歳以上の予後が55歳未満に比べて少し悪いのですが、その差はさほど大きなものではありません。それでは55歳以上の高リスク症例の予後は、年齢に関係なく一律なのでしょうか?
図3に55歳以上の高リスク症例を55-64歳、65-74歳、そして75歳以上の三群に分けて、それらの予後を検討した結果を示します(4)。一部グラフが重なっていますがこれらを統計学的に解析すると、55-64歳、65-74歳、75歳以上の順で予後が有意に悪く、高リスク症例は55歳を超えても、年齢が上がるにつれてどんどん予後が悪くなっていくことが分かりました。なお、55歳以上の中間リスク症例にも同様の検討を行いましたが、こちらは全く差が出ませんでした。

高齢者の乳頭癌に対するマネージメント
以上のことから高齢者の乳頭癌に対するマネージメントは、リスク分類によって異なってきます。
超低/低リスク症例の術後の予後は高齢者と若年者で全く変わらず、高齢者だからといって特別な配慮は不要です。中間リスク症例は高齢者の方が若干予後は悪いですが、その差はさほど大きくありません。
その一方で、高齢者の高リスク症例の予後は他よりも群を抜いて不良です。従って高齢者の高リスク症例の治療には、注意を要します。高リスク症例の標準的な手術は甲状腺全摘および治療的/予防的リンパ節郭清ですが、高齢の患者さんはそういう大きな手術を受けることを躊躇しがちです。
しかし最初に手控えた手術を行ってしまうと、再発したときに放射性ヨウ素治療や分子標的薬投与がただちに行えず、治療開始が大幅に遅れてしまいます。従って高齢者の高リスク症例に対しては、全身状態が許せば若年者と同じ標準的な手術を行い、術後の経過観察にも細心の注意が必要になります。
おわりに
高齢者の高リスク症例は特に予後が悪く、きちんとした手術をふくめた慎重なマネージメントが必要です。私たちは科学的な根拠に基づいて患者さんの病状をきちんと評価し、その時点での最良の治療をご提案させていただきます。
参考文献
1. 日本内分泌外科学会・日本甲状腺外科学会編 甲状腺腫瘍ガイドライン2018 日本内分泌・甲状腺外科学会雑誌 2018;35:suppl.3
2. Ito Y, Miyauchi A, et al. Appropriateness of the revised Japanes guidelines’ risk classification for the prognosis of papillary thyroid carcinoma: a retrospective analysis of 5,845 papillary thyroid carcinoma patients. Endocr J 2019; 66: 127-134.
3. Ito Y, Miyauchi A, et al. Subset analysis of the Japanese risk classification guidelines for papillary thyroid carcinoma. Endocr J 2020; 68: 275-282.
4. Ito Y, Miyauchi A, et al. Older age significantly affects mortality of patients with papillary thyroid carcinoma only when they have high-risk features. World J Surg 2020; 44: 1885-1891.
外科顧問|甲状腺外科、内分泌外科、乳腺外科 伊藤 康弘
PROFILE
大阪大学医学部を卒業後、旧第二外科学教室へ入局して一般外科医としてのキャリアをスタートさせる。その後は同大学大学院や関連病院にて研究および一般外科の臨床に尽力するが、何かひとつの専門分野を持ちたいという思いを抱き、2001年に大学医局を離れて隈病院に入職。以降は甲状腺外科医として精力的に活動し、海外での研究論文発表も積極的に行う。2023年現在は外科顧問として後進の育成指導にも取り組んでいる。